「良い品物を、より安く」

お客様の、また私たち売り手にも共通した願いだと思います。
しかしながら「水揚げ&相場の傾向」に書きましたように、カニは日々の価格変動が非常に大きく、時期によっては悪い品を高値で買う事になってしまいます…。

安値の大当たりを引ければ万々歳ですが、競りの相場自体が上がってるくと、なかなか難しくなってきます。

大当たりを狙うのも醍醐味ですが、まずはハズレを引かないコツを書き連ねてみます。


【時期による良し悪し】
11月は安く、12月は日に日に高値、年末年始は最悪。
1月〜3月は運任せ。

適当なようで、ずっと昔から続く傾向です。
以前は年明けは安値が続きましたが、近年は不安定な値動きとなっています。


【天候次第で】
相場に大きく影響するのが「シケによる出漁不可」。
供給がストップしてしまうので、大きな(長期の)シケほど値上がり幅が大きくなります。
困るのは、シケの後ではなく、シケの前から高騰してしまう事…。
なぜなら、その日を最後にシケでしばらく水揚げが無い訳で、年末の高値と同じ理由ですね。

津居山港の場合、波の高さが2mを越えるとほぼアウトです。
また天気予報で兵庫県北部に雪マークが付いていれば、冬型の気圧配置→海はシケとなります。
時期を問わず、週間予報に雪マークが並んでいる時はお勧めしません。

反対に晴れマークが並んでいれは、海は凪続き→順調に水揚げとなりますので、値下がりが期待できます。
面白いのは我々仲買人の心理で、翌日以降も順調に水揚げがあると予測すれば、その日の競りで無理な買い方(値付け)をしませんから、競り値も落ち着きます。


【平日or週末】
カニは調理に手間が掛かる品物です。
平日に仕事を終えてから、夕食にカニを召し上がっていただくような場合、かなりバタバタとした段取りになるのでは?
それならば、お休みの週末に届くよう注文し、ゆっくりと召し上がっていただく。
私もこれがベストと思います。

だけど皆が同じ事を考えると、特定の期日に注文が集中するんですね。
土日着での発送分に加えて、週末は卸売りと店頭小売りの需要も多くなります。
毎週土曜日は競り休みですから、週末を控えた金曜日の競りは、だいたい良い相場になるのです。

反対に週の前半、月曜日〜木曜日あたりは需要がそれほどでもなく、落ち着いた競り相場となる事が多い。
せわしないかもしれませんが、平日お届けでのご注文も検討いただければと思います。
 
【良い時におまかせで】
以前から常連様やリピーター様に利用いただいている方法で、いわば「発送のご予約」ですね。
カニの種類、数量や予算をお伝えいただき、後は概ね1週間〜1ヵ月ほどの期間内で、良い品が入荷した時に私の判断でお送りするというものです。
なかには「シーズンが終わるまでに送って」という猛者(長年の常連様)もいらっしゃいますが。

手前味噌ですが、良いカニを安くお求めいただける、一番良い方法だと思います。

なぜならば、水揚げが少なかったり、あるいは相場が高くカニの品質が値段に見合わないなら、その日の発送を見送るからです。
納得いく品物が入荷するまで、何回でも競りで仕入れするチャンスがある訳です。

反対に「○月○○日 着」と、お届け日を厳密に指定いただいた場合。
おのずと発送日が決まりますから、チャンスは一度きり。
ある日の競りで一発勝負になります。
品物に納得いかずとも発送せざるを得ない。
こういうケースは毎年必ず起こります。

いつ届くのかはっきり分からないというのは、確かに不都合も多いのですが、時価商品をお買い求めいただくに際しご一考いただきたく思います。

正直なところ、安い時に大量に仕入れして水槽に放り込んで、朝競りの品物と偽って売ればこんな手間はかかりません。
1匹1匹に水揚げ日が記載されている訳ではないし、「活きてる=良いカニ」というのがカニに対する多くの方の認識です。
そのカニがいつ水揚げされたのかを見極めているお客様は、驚くほど少ないというのが私の実感です。
シケで1週間も水揚げがないのに店頭には毎日カニが並び、あるいは水槽に泳がせていたカニが売られていく。
需要があるから売れるのですが、あくまで「今日の水揚げ品ではないことを黙っていれば」という前提条件が付いています。


【訳あり品はお買得か?】
カニには「訳あり品」と呼ばれるものがあります。

・指が取れている「指落ち」
・指が短い「短足」
・一部が折れたり潰れたりした「傷」
・染みのような斑点のある「色付き」
・甲羅や腹が陥没した「へこみ(凹み)」

品物として何らかの問題があるものの総称です。

問題のない「正規品」に比べると全般に価格は安くなりますので、ご贈答向けではなくご家庭でお召し上がりの際には、非常にお買得といえる品物でした。

ただ、近年この訳あり品の価格が値上がりし、正規品との価格差が小さくなっています。
特に水揚げが不安定であったり、注文が集中して相場が高騰する時期には、この傾向が顕著となります。

要因としては、販売する側が訳あり品を積極的にアピールするようになり、またメディアを通しても広く紹介されるようになったため。

また、主に卸売り向けに「指継ぎ」という方法が広まってきたためです。

指継ぎは、複数の指落ちカニを組み合わせ、指の本数を合わせる(継ぎ足す)方法。
指の揃った品では想定価格をオーバーしてしまう場合に、割安な指落ちで代替する手段で、どのみち宿泊施設等では捌いてバラバラにして提供されますので、指の本数さえ足りていれば良い訳です。
かつては指継ぎは敬遠されていましたが、価格の高騰に伴い背に腹は代えられなくなっています。

このような要因から、一部の方しかご存知ない「お値打ち品」だったものが、需要の急増により価格が押し上げられる事になりました。
時には訳あり品が、正規品と遜色ない価格にまで高騰するケースも出てきます。

「品物自体の価値」でいえば正規品に劣るにも関わらず、価格は変わらない。
決してお買い得ではないのですが、「訳あり品」という言葉が強い訴求力を持ち、実際に多くの注文が入るがため、かえって割高でも訳あり品を仕入れねばならない。
非常にいびつな構造が出来上がっています。